最近は、夜眠るときでも冷房をつけることが一般的になってきました。寝ている間に熱中症になってしまうのを防ぐために冷房を使った方が良いですよ、とメディアで説明されることも多いです。
しかし、実際に外来で患者さんに、寝るときに冷房を使っているかを尋ねると、特にご高齢の方ほど「自然に任せて寝ている」、「扇風機なら使うけど」とお答えになることが多いです。理由を尋ねると「体に悪い気がするから」、「もったいないから」が多い印象です。
一日の疲れをとるための大切な睡眠。今回は、夏の寝つきの悪さの原因や、夜眠るときの冷房について、そして、おすすめの夏の眠り方についてご紹介します!
1)どうして夏は寝つきが悪くなるのか
ぬくぬくとしたベッドですっと眠りに落ちていた冬に比べて、夏は暑くてなかなか眠れない。
どうして夏は寝つきが悪くなるのでしょうか。
睡眠は、末梢皮膚温(体の表面の温度)と深部体温(身体の深い部分の温度)が深く関係しています。
眠る前、身体は活動状態からスリープ状態になります。具体的には、深部体温が下がることでこの状態に至ります。深部体温を下げるために、体は末梢皮膚温を上昇させて、熱を外に放出します。
末梢皮膚温が入眠過程での眠気と深く関係しており、上昇が早いほど入眠潜時は短縮(1)すると報告されています。
つまり、夏であれば汗をかくことで眠りにつきやすくなり、冬は温かい布団に入れば眠くなるはずです。
それなら暑い夏の方が眠りやすいはず!と思った方も多いはずです。しかし、夏は寝つきが悪い。その原因は日本の気候にあります。
日本の夏は「高温多湿」なので、高温で汗をかいても、湿度が高いせいで汗が蒸発せず、皮膚から流れてしまいます。発汗で皮膚が濡れた状態になると、体が脱水を防ぐために汗そのものを減らそうとします。
その結果、汗をかいているのに末梢皮膚温も深部体温も下がらず、寝つきが悪くなってしまうのです。
2)睡眠時に冷房を使うと身体に悪いの?
2013年に高齢者に向けたアンケートで、夜間に冷房を使用しない理由として「体に良くないと思うから」が最も多く半数以上を占めていた(2)と報告されています。
高齢者の方は、当時より気温が高い現在でも、同じような理由で寝るときに冷房をつけない方がいいと思っている方が多い印象です。
確かに、レム睡眠(浅い睡眠)と徐波睡眠(深い睡眠)時に皮膚を加温もしくは冷却すると、冷却の方が加温よりも覚醒し、特にレム睡眠で顕著であった(3)という報告もあるので、低温環境の方が高温環境よりも睡眠に及ぼす影響は大きいと考えられています。
しかし、睡眠に関する先行研究では、29℃前後で深い睡眠である徐波睡眠が最も増えること、高温多湿の条件下では覚醒が増加し睡眠の質が低下することが報告されています。(2)
最近の文献でも、特に高齢者では室温が高いと睡眠の質が下がるという報告もあります。報告の中では、温度30℃では27℃と比較して、
高齢者の総睡眠時間が26.3分
睡眠効率が5.5%
レム睡眠時間が5.3分
それぞれ減少し、覚醒時間が27.0分増加した(4)というデータがありました。
つまり、冷房そのものが悪影響なのではなく、寝具や風向きなどを工夫して、適切に冷房を使用する必要があると言えます。
3)寝つきの悪さから解放されよう!おすすめの夏の眠り方
ここで、寝苦しい夏を快適に過ごすための睡眠環境をご紹介します!
まずは冷房です。
タイマーをセットするより28~29℃の連続冷房が望ましい(2)ものの、費用などの問題でタイマーにする方もいらっしゃるかもしれません。その場合は、睡眠の前半4時間の使用がおすすめです。この場合、使用しないよりも睡眠効果が改善し、後半に使用するよりも効果がある(1)と言われています。
次に寝具です。
敷き寝具の湿温度と体動の発生は相関が高い(1)と言われています。すなわち、夏に合った敷き布団、ベッドパッド、シーツを選択すると、より質の高い睡眠を期待することができます。具体的には固めで保湿性が高く、通気性や透湿性が良いものを選ぶと、寝床内の湿度を低下させることができ、暑さを軽減することができます。
また、接触冷感素材のパジャマでも、寝床内湿度と衣服内温度の低下や暑さの軽減が期待できると報告されています。
これらを取り入れた快適な睡眠環境を心がけてみましょう。
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夏の寝つきの悪さとその対策についてお話ししました。
睡眠の質を高めることは、てんかん発作の抑制や頭痛の予防にも大切です。年々暑さは増すばかりですが、しっかり対策をして夏を乗り切りましょう。
頭痛や不眠などでお困りのことがあれば、お気軽に当院へご相談ください。
<参考文献>
(1)水野 一枝:環境温湿度と睡眠.睡眠口腔医学,2016;2(2):89-93
(2)萱場 桃子 ら.:夏季における高齢者の夜間エアコン使用に関する研究.民族衛生,2013;79(2):47-53
(3)Candas V et al. : Heating and cooling stimulations during SWS and REM sleep in man. J Therm Biol.1982;7(3):374-382
(4)Yan Yan et al.: Experimental study of the negative effects of raised bedroom temperature and reduced ventilation on the sleep quality of elderly subjects. Indoor Air. 2022 Nov;32(11):e13159