昔から片頭痛があって薬を手放せない、ひどい片頭痛のせいで外出をあきらめたことがある、そのような悩みはありませんか?
そのようなつらい片頭痛の痛みの頻度や程度を、和らげることができるかもしれません。
今回は片頭痛の予防療法についてご紹介します。
1) 片頭痛の原因とは
片頭痛は、「ズキズキするような拍動性の痛み」、「痛みの程度が中程度以上で寝込むような頭痛」、「歩行などの日常的な動きで悪化する」、「吐き気や気持ちの悪さを伴う頭痛」、「光や音に敏感になる」などの特徴があります。
また、片頭痛という名称から左右いずれかの頭痛と思われがちですが、両方で起こることも少なくありません。
いくつかの原因が考えられていますが、片頭痛の病態は大脳皮質の過剰興奮によると考える神経説や,三叉神経と頭蓋内血管との関係に注目した三叉神経血管説(1)が提唱されています。
最近は、後者の「三叉神経血管説」が特に注目されています。
三叉神経血管説とは、以下のような仕組みです。
① 何らかの刺激によって硬膜という外側の膜にある神経(三叉神経)から痛みの原因になる物質が放出される
② ①に痛んだ三叉神経が、痛みに敏感になり些細な刺激に反応しやすくなる
③ 通常だと痛みを感じないはずの血管の拍動さえも痛みと感じる(このため心拍に合わせてズキンズキンと痛む)
上記の神経ペプチドが「カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)」であり、最近の片頭痛治療では特に注目されている物質になります。
2) 片頭痛予防薬について
片頭痛の予防治療を勧められているのは、下記の条件を満たす場合です。
- 片頭痛発作が月に2回以上、あるいは生活に支障をきたす頭痛が月に3日以上ある
- 片頭痛発作による急性期治療のみでは日常生活に支障がある場合、急性期治療薬が使用できない場合、永続的な神経障害をきたすおそれのある特殊な片頭痛もしくは急性期治療ができない場合(2)
※急性期治療とは一般的な頭痛薬などの痛み止め、およびトリプタンなどのことです。
予防薬の種類は主に内服薬と注射の2種類です。
内服薬は、抗てんかん薬(バルプロ酸など)、降圧薬(プロプラノロールやロメリジンなど)、抗うつ薬(アミトリプチリン)など、様々な種類の薬剤の一部が第一選択薬です。
片頭痛の予防に使用するこれらの薬剤には様々な副作用があるため、注意が必要です。
具体的には、
・バルプロ酸の妊娠中の使用は胎児奇形の原因となりうる
・降圧薬はもともと血圧が高くない状態で使用する場合に、めまいなどの症状を引き起こしてしまう
・抗うつ薬は眠気がみられやすい
などが挙げられます。
一方で、2020年代から国内での使用が認められた注射製剤はこれらの副作用をほぼ伴わずに頭痛を大きく改善する可能性があります。
注射製剤は現在、抗CGRP抗体製剤(CGRPをブロックする)が2種類、抗CGRP受容体抗体(CGRPの受取先をブロックする)が1種類の合計3種類が国内で認可されています。
エムガルディ、アジョビ、アイモビーグなどの商品名で、それぞれの製剤同士を比較した効果の違いの報告はありませんが、いずれも片頭痛の予防への効果が報告されています。
具体的には、エムガルディだと1か月あたりの片頭痛の日数が50%以上低下した患者さんが59.3%、75%以上低下した患者さんが33.5%、100%消失した患者さんが11.5%と報告されています(3)。
これらの注射剤は4週間に1回皮下注射、12週間に一度の皮下注射、作用機序の違いで使い分けます。
製剤自体は保険負担3割で約12000円/月と高額ではありますが、使用開始から3か月で効果判定、6か月程度で終了判定をします。
ほとんどの方が6か月程度で注射薬から卒業し、その後も頭痛は改善したままで経過します。
このように、一見高額な治療ではありますが半年程度の費用負担で今後の生活が変わる可能性があります。
私見ではありますが、片頭痛の罹患期間が短いほど、頭痛予防の奏功が高い印象があります。数年来の頭痛のために顔をしかめて受診した方が、エムガルディを開始して2~3か月後には笑顔に変わり、半年後には家族旅行ができるようになったと嬉しそうにされる姿もありました。
また、20年来の慢性片頭痛の方でも、頭痛の日数や程度が半分程度まで改善しています。
これらはあくまでも外来患者の一例ではありますが、片頭痛の予防はその人の人生を大きく変えるものになりえます。
つらい片頭痛を無理に我慢する必要はありません。頭痛や脳の専門家である神経内科専門医、当院にぜひご相談ください。
<参考文献>
(1)荒木 信夫. 頭痛の病態生理と治療.日本内科学会雑誌 2014;104(3):502-507
(2)日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会 監修.頭痛の診療ガイドライン2021
(3)Skljarevski V et al,: Cephalalgia 2018;38(8):1442-1454[利益相反:イーライリリー社]