寒い季節は血圧が上がる、と聞いたことはありませんか?もともと血圧が高めの人にとっては、気になる季節ですね。
高血圧そのものは直ちに身体の変化をきたしにくいため、そのままにしている方もいるかもしれません。実は、高血圧は放置すると命に関わる危険性があります。
今回は、冬に血圧が上がる理由と、高血圧になるとどうなってしまうのかについてわかりやすく解説します。
■冬に血圧が上がるのはどうして?
気温が下がると鳥肌が立つのは、ほとんどの方が体感的に経験していることでしょう。これは、体温が下がってしまわないように、身体の表面の毛穴を締めて体表面積を小さくすることで、体温の喪失を防ぐために身体が行う無意識の反応です。
この無意識の反応は、「自律神経」という神経が気温などの刺激に対して、身体を守るために反射的に行う反応です。
この反応の一つとして、気温が下がると手足の先の血管は締まり、手足からの熱の放散は少なくなります。同時に、肝臓など身体の中で熱を発生させる臓器への血流が増えるため、効率的に体温を上げることができます。
この一連の作用で、血管に圧がかかるため、普段よりも血圧は高くなってしまいます。
また、冬の伝統的な料理は総じて、塩分の高いものが多いです。現代ほど食糧保存の方法が多くなかった時代には、冬の食糧長期保存の手段として塩を多く使っていました。
塩分の多い食事を摂ると、血液中の塩分濃度を一定にするために血液中の水分が増え、結果的に血管にかかる圧が高くなってしまいます。
このように、自律神経の働きや食事の変化によって、冬は血圧が高くなってしまいがちです。
外来通院中の方でも、冬だけ降圧薬を増やす、なんてことはよくあります。
■そのままにしておくのは厳禁!高血圧を放置すると起こる怖い病気
高血圧症は、「収縮期血圧(上の血圧)が140mmHg以上の場合、または拡張期血圧(下の血圧)が90mmHg以上の場合、あるいはこれらの両方を満たす場合」に診断されます (1)。
高血圧症は放置していると、全身の血管に負荷がかかり、動脈硬化が進んでしまいます。動脈硬化が進むと、心臓に負担がかかってしまいます。
わかりやすく、水を撒くホースに例えてみましょう。新しく弾力があるホースは、強い水圧でも軽々と水を撒くことができます。
一方で、古くて硬くなったホースは弾力が少なくなり、汚れが詰まっていたり、一部が裂けて水が漏れてしまったりしているため、水を撒く効率が悪く撒き手に負担がかかります。
同じように、動脈硬化が進んだ血管だと、心臓に負担がかかってしまいます。また、血管そのものが痛んでしまうため、血液のろ過装置で血管の集合体である腎臓や、心臓や脳に血を送る血管を中心に、不具合が起こります。
具体的には、心不全、腎不全、心筋梗塞、脳卒中、脳や腹部の動脈瘤、大動脈解離などが挙げられます。
心筋梗塞や脳卒中、大動脈解離は発症が突然発症し、発症直後の生死や重大な後遺症に関わるとても危険な病気です。また、心不全や腎不全は程度にもよりますが、徐々に日常生活に支障をきたしうる病気です。
これらは、高血圧症の管理次第で発症のリスクを抑えることができます。
次に、気を付けたい高血圧症の具体的な数値について示しておきます(2)。
◎すぐに医療機関を受診することを推奨する血圧
収縮期血圧160 mmHg 以上 または/かつ 拡張期血圧100 mmHg 以上
◎1ヶ月程度生活習慣を見直して、血圧が下がらない場合
1ヶ月程度、生活習慣を見直して血圧が下がらない場合、医療機関を受診することを推奨する血圧は以下の通りです。
収縮期血圧140~159 mmHg または/かつ 拡張期血圧90~99 mmHg
※生活習慣の改善とは、体重を減らす、
適度な運動をする、お酒を控える、
塩分を減らす、野菜と果物を多く摂るなど
また、すでに脳卒中や心臓・腎臓の病気の既往や糖尿病をお持ちで高血圧症の場合は、すぐに医療機関を受診するようにしましょう。
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寒い冬に血圧が上がってしまう理由と、高血圧を放置すると起こりうることについて説明しました。
時折、薬を飲むと病気の認定をされたみたいで飲みたくない、薬が増えるのは嫌だ、とおっしゃる方がいます。しかし、どんな方においても、身体の老化や遺伝的な背景、積み重ねてきた生活習慣などで起こる身体の変化から逃れることはできません。
大切なのは、「心も身体もできるだけ元気に、長生きするためにはどうしたら良いのか」を実践することではないでしょうか。そのために、薬だけでなく生活習慣などの非薬物療法も含めて相談できるのがかかりつけ医です。
高血圧でお悩みの方はぜひ当院へご相談ください。
<参考文献>
(1)特定非営利活動法人日本高血圧学会ほか:一般向け「高血圧治療ガイドライン2019」解説冊子 高血圧の話