
睡眠時無呼吸症候群は睡眠関連呼吸障害の一つです。睡眠中に、呼吸の回数が少なくなったり、一定時間全く呼吸をしなくなったりする病気です。
睡眠関連呼吸障害そのものは、国内では50歳以上の男性の10~20%、女性の10%にみられます(1)。
その中でも睡眠時無呼吸症候群、特にいびきを伴う閉塞性睡眠時無呼吸症候群の割合は多く、さらに治療を必要とする中等度以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の有病者は、実に900万人であると推測されています(2)。
今回は睡眠時無呼吸症候群の原因と治療についてご紹介します。
1) 睡眠時無呼吸症候群の原因とは?
睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome, SAS)には大きく3つのタイプがあります。
- 中枢型睡眠時無呼吸症候群
- 閉塞型睡眠時無呼吸症候群
- 混合性(1と2の混在)
1と2の特徴と原因について説明します。
①中枢性睡眠時無呼吸症候群
脳卒中後や心不全に合併しやすく、無呼吸中に呼吸中枢から呼吸筋への指令がなくなり、呼吸をするのに必要な胸やお腹の筋肉の動きがなくなることが原因です。
②閉塞性睡眠時無呼吸症候群
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の発症に関係する主な因子は肥満、性差(男>女)、加齢(1)などが挙げられます。これらによって、肺気量の低下(呼吸で入れ替わる空気の量)、解剖的な気道の狭窄(見た目ののどの狭さ)が生じることが、発症の原因になります。
肺気量は呼吸の出力(覚醒しやすさ、呼吸の不安定性、上気道開大筋の反応性)に関与しています。
気道が狭くなり呼吸がしにくくなる状態によって肺気量が低下すると、上気道の虚脱や閉塞、間欠的な血中の低酸素状態と高二酸化炭素状態、それらによるpHの変化、頻回な睡眠の分断が起こってしまいます(3)。
簡単に、気道をチューブに、肺を風船に例えて言い換えてみましょう。
太いチューブをつなぎ、数秒空気を送ることできれいに膨らんでいた風船があります。これを細いチューブに替えて同じ秒数空気を送ると、十分に膨らむことができずにしぼんでしまいます。
肺が十分に膨らまないと、気道を広げる筋肉が上手く働けなくなったり、体に必要な酸素が十分に行きわたらずに、さらに呼吸が不安定になったりします。
気道が狭くなる原因には、肥満などによる上気道周囲の軟部組織の沈着や、舌容積、扁桃肥大などが考えられています(1)。10%の体重の増加により、低呼吸指数が32%悪化するという報告もある(3)ため、肥満であることは閉塞性睡眠時無呼吸症候群の重要なリスクと言えます。
しかし、アジア人だと閉塞性睡眠時無呼吸症候群の47%が非肥満者であるというデータもあります。これは、アジア人が顎顔面形態により骨格的に気道が狭いことが影響していると考えられています。
このように、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」=「肥満」とは言い切れないのも事実です。
また、上気道開大筋の働きが、睡眠中に低下することも閉塞性睡眠時無呼吸症候群の原因の一つと言えます。
以上をまとめると、閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、加齢などの背景の中で、肥満や骨格的に気道が狭くなっていることに加え、気道を拡げる筋肉の働きが低下し、肺の換気量が減ることでさらに悪化の一途をたどって起こっていると考えても良いでしょう。
2) 睡眠時無呼吸症候群の治療について
次に睡眠時無呼吸症候群の治療について説明します。
中枢性睡眠時無呼吸症候群については、心不全や脳梗塞のリスク管理が治療の主体になります。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群については、下記の表のように、気道の開存や呼吸の補助が治療の主体になります。
治療 |
名称 |
内容 |
呼吸補助 |
CPAP療法 (シーパップ療法、Continuous Positive Airway Pressure:CPAP、 持続的陽圧呼吸療法) |
マスク型の装置で鼻や口を覆い、自動で空気を肺に送り込む、小型の人工呼吸器を使った治療。 |
気道開存 |
OA療法 (オーラルアプライアンス療法(Oral Appliance:OA)) |
マウスピースを用いて下顎が前方に固定される(4)ことで気道が拡がり、睡眠時の気道確保につながる。 |
減量 |
気道周囲についた軟部組織(脂肪組織)の減量が見込める。 |
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耳鼻咽喉科的手術 |
口蓋扁桃やアデノイド摘出術など、気道を狭くしている構造物を除去する治療。CPAPなどを使用できない場合に検討。 |
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体位療法 |
寝るときの姿勢を仰向けから横向きに変えることで、呼吸指数の改善を図るもの。 |
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睡眠時無呼吸症候群の原因と治療について説明しました。
難しい話もありましたが、国内では推定900万人いる中等症以上の睡眠時無呼吸症候群の方のうち、CPAPなどで適切な治療を受けている方は50万人にも届きません(2)。
いびきを伴う無呼吸がある場合は、睡眠時無呼吸症候群の検査を受けることを検討してみましょう。睡眠時無呼吸症候群が心配な方は、お気軽にご相談ください。
<参考文献>
(1)日本呼吸器学会 監修:睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020
(2)佐藤誠:睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疫学.日内雑誌2020;109:1059-1065
(3)藤江建朗:睡眠時無呼吸症候群.森ノ宮医療大学紀要 , 2022;16:81-88 (4)日本睡眠歯科学会 監修:閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対する口腔内装置に関する診療ガイドライン(装置の作製に関するテクニカルアブレイサル:2020年版)