吐き気を伴う頭痛を経験したことはありますか。吐き気がするほどの強い頭痛があると、脳に異常があるのではないかと心配になる方も多いはずです。
それでは、吐き気を伴う頭痛について紐解いていきましょう。
1)頭痛で吐き気が起こるメカニズム
脳そのものは痛みを感じる受容体がないため、痛みを感じることはありません。痛みの原因となる刺激自体は脳の血管が受け取り、神経線維に情報が伝わり、脳皮質の感覚野で痛みとして認識されます(1)。
この頭痛が起こるまでの経路の中で、交感神経の活性化が生じた結果の反射や、三叉神経の刺激が嘔吐中枢に広がることで吐き気は起こります。
また、物理的に直接脳が圧迫されることでも嘔吐中枢は刺激を受け、吐き気が起こります。
では、具体的にどのような頭痛が吐き気を伴うものなのかを見ていきましょう。
皆さんが出会うかもしれない吐き気を伴う頭痛の中で、急いで対処が必要なものからご紹介していきます。
2)吐き気が起こる頭痛の特徴と予防
-脳出血、くも膜下出血
吐き気が起こる頭痛の中で緊急度が高く、命に危険が及ぶものが脳出血やくも膜下出血になります。くも膜下出血はこぶ状の血管である動脈瘤の破裂によって起こります。
出血によって脳の血管や脳の周りにあるくも膜を刺激することで起こる頭痛、血液に含まれる痛みの成分による頭痛、出血によって髄液の循環が障害され脳圧が上がって起こる頭痛などが重なるため、「雷に打たれたような頭痛」と表現されるほどの痛みが起きます。
脳出血は出血する場所にもよりますが、反射や嘔吐中枢への刺激や直接的な圧迫で吐き気は起こります。また、出血後に周囲の脳が腫れて、嘔吐中枢への圧迫が強くなることでも、嘔吐は起きやすくなります。嘔吐を伴う頭痛の他に、麻痺やしびれ感などがみられやすいのも特徴です。
これらはいずれも、症状がわかりやすいので救急車を呼ぶ判断に迷うことはないでしょう。また、高血圧の状態が続くとこれらの出血は起こりやすくなるため、普段から血圧管理には気を付けましょう。
-脳炎、脳症
吐き気を伴う頭痛の中で比較的に出会う頻度は低いものです。しかし、タイプによっては命に危険が及ぶものや、重大な後遺症が残ってしまうものもあるので注意が必要です。
感染などによっておこる炎症が、髄膜にある痛みの受容体に作用することや、髄液の異常で圧が上がることで頭痛や嘔気が起こります。
吐き気の他、ぼんやりとして会話が成立しない、発熱、けいれんや異常行動などの症状がみられます。
脳炎や脳症は、糖尿病や免疫抑制剤を使っているなどの免疫が低下している場合に起こりやすいので、あてはまる人は少しでも症状があった時点で医療機関に相談するようにしましょう。
-脳腫瘍
脳炎や脳症と同様に比較的に出会う頻度は低いものです。
腫瘍ができる場所によって、目が見えにくい、言葉がうまく出ない、情報処理ができなくなる、麻痺がおこるなど、様々な症状が出現します。
ある程度腫瘍が大きくなり嘔吐中枢を圧迫する場合に嘔気を伴うことがあります。
数か月にわたって徐々に頭痛が強くなる、以前とは言動が異なるなどの症状がある場合は脳の専門外来を受診することをお勧めします。
-片頭痛
一番遭遇するのは片頭痛でしょう。名前が知られている分だけ、たいしたことがないなどと思われがちな片頭痛ですが、症状や程度は人それぞれです。
実際に救急外来で、立っていられないほどの強い頭痛と吐き気があって救急車で来院したけれども、脳に異常はなく片頭痛の強い発作だった、という結末は意外にあります。
片頭痛のメカニズムの有力候補に三叉神経血管説が挙げられています。何らかの刺激により血管に分布する三叉神経終末が興奮し、数種類の神経ペプチドが生じることで頭痛が起こると言われています。(2)
緊急性はないのですが、生活に支障をきたす頭痛が月に3回以上ある場合は、積極的に予防療法を検討しても良いでしょう。予防薬は神経の興奮を抑えたり血管の反応を和らげたりする内服が主流でしたが、2020年代になってからは注射製剤(CGRP関連製剤)も認可され、治療の選択肢が広がってきています。
数年悩まされてきた片頭痛で顔をしかめて受診した人が、予防療法によって仕事や旅行などのプライベートも充実させることができた、と笑顔になるのがとても印象的です。
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吐き気を伴う頭痛について説明しました。
危険な頭痛が多いので、早めに医療機関を受診することをおすすめします。危険度が低い頭痛であっても、医療機関に相談することで生活をより充実させる糸口が見つかるかもしれません。
<参考文献>
(1)端詰勝敬、都田淳:頭痛.心身医 Vol.56 No.8.833-838, 2016
(2)頭痛の診療ガイドライン. 94,2021